詩集  2

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無題歌 三
 
 
あなたに伝えたいことがあった
でも、もういい
忘れてしまった
 
わんぱく小僧に牛乳をやろう

それからおしめも替えなければ
妻の目をぬすんで本を買って
あたたかな日だまりで少し居ねむりをする
 
嘘をつかないかわりに
本当のこともあまり言わないようにしよう
それにしても
あなたに言いたかったのは
何だったろう。

 

風に関して言えば 
 
 
風に関して言えば
私たちは常に風に吹かれていて
海にある藻のようなものである
海の中にも風の吹いているのは周知の事実

だが
地球上のすべてのものは
風に吹かれているのであり
風は地球上のすべてのものに吹いている
いま少し冗長な言い回しを許していただけ
るなら
風は地球のすべてである
 
 

あなたの
 
 
あなたの やさしく
ふっくらとした身体が
いつも僕のとなりにあればよいと思う
僕は、ほのぼのと安心して
いやなことや
悲しいことを忘れていられるだろう

あなたの身体は
ほのぼのとしてやさしいから
僕はつつまれるように安心して
夢や希望を素直に語れるだろう
疲れたときに
ふっくらとしたあなたの身体が
僕のとなりにあったらと
いつも思う
しきりに思う

 
 
 
息のとまるほど
 
 
息のとまるほど抱いて欲しいと
男が思うわけがなく
思ったところで

誰が抱いてくれるわけでもない
幼い日の思い出だけが頼りで
男は
妻や児を
息のとまるほど抱いてやるのだ
そうして抱いてやりこそすれ
息のとまるほど抱いて欲しいと
男が思うわけはないのだ
 

 
 
子供は純真だと
 
 
子供は純真だと
この頃は思えてならないのだが
その分ぼくは
大人になってしまったのだろう

 
子供の残酷がつらかったのは
まだぼくに
子供の心が残っていたからかもしれない
子供の意地悪や憎まれ口に
涙が出たり腹が立ったりするのは
それでもまだ自分が
純真だったせいだろう
 

もう子供の心がわからなくなって
ぼくは大人になってしまったんだと
笑ってしまう
 
 
無題
 
 
はげしくにえたぎっていたものが

何だったのか忘れてしまった
情熱だとか野心だとか
なべて若さに関するそれらの言葉が
今はただ重く感じられて
耳をふさいでいなければ
涙が
こぼれそうになる
それでも青春と誰が言うのか
老いたのでも疲れたのでもないが

しんじつ淋しいと思う
冬の夜だ
 
 
No. 22
 
 
淋しいという言葉は
絵の具といっしょに溶けてしまった

たとえば水色の
だから、あくびをしながら本を読み
一つしか出ていない星を見あげ
爪などをながめ
足をすりあわせ
煙草に火をつけながら
なんと言ってよいものやら
途方にくれてしまった
 

 
無題歌 一
 
 
朝であれ夕であれ
薄明というのが好きなので
そんなどちらともつかぬ
幕間
のようなものが好きなのは

なにかの因果ででもあろうかと
思ったりする
こんな都会のただ中でさえ
薄明に身をひたすと
ふっと
吐息が洩れたりするのだ
 
 
風の唄 二

 

私は本当は
風になりたかったのだと
思います
私が私を
風のようだと思ったのは
私の願望が
一時的にも充たされて

嬉しかったのだと思います
風であることは
たよりなく
淋しいことなので
私は
結局
風でありつづけることは
出来ませんでした。
 

 
友に
 
 
私は生活のむなしさを訴えよとするのではない
おのれの無気力をなげくのでもない
生活べたなおのれが
歯がゆく
いとおしいのだ

と言ってそれは自己慰籍ではない
己に克ちたいと思っているのだ
いつだって克ちたいのだ
 
私は生活が嫌いではない
私という人間もまた
嫌いではない
ただ、たかが日常の些事に
たやすく疲れ果ててしまうおのれが

歯がゆくもまた哀れなのだ
と言ってこれは愚痴ではない
自分を励ましているのだ
いつだって自分を励ましながら生きている
 
私は私の人生を好いている
 
 
無題歌 四

 
 
石を投げこむと
ゆっくりと飛沫があがり
空中で
なおもゆっくり踊りつづける
廃油でゲル化した
故郷の運河の話ではない
私の頭の中このことだ

そうやって
落下もせずに踊りつづける飛沫を見つめて
もう何秒かたっている
 
故郷の運河の話ではない
私のやくざな脳ミソの話だ


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