詩集  3

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風景 二
   
ついた吐息が
そのままの形で
空中に浮いている
街を行く女たちの胸には
こわれた陶磁の人形が
呪縛のように離れない
 
街を行く女たちにとって都会はいつも
魔女の哄笑にくくられた
黄金分割の書き割りなのかも知れない
淋しい淋しい
晴れ舞台なのかもしれない
 
小さな水族館にて
 
回遊する魚が
鼻先をかすめてゆく
回遊する魚の腹の中は
塩水ばかりだ
魚を見ている俺の腹の中は
風ばかりだ
 
海が魚の体の中を
回遊しているのにすぎないように
俺の中を

風景が流れてゆくのにすぎないのだ
 
目をそらす俺の目に映るのは
目をそらしていく魚達
 
風景 三
 
鳩達の今一番の楽しみと言えば
道を行く人間の頭の上に
フンをひり落とすことだろう
と言うのは冗談だが
鳥というのはどいつも
気持ちよさそうにフンをひる
あまり気持ちよさそうにフンをひるので
それが彼らの
一番の喜びと思えてならないのだ
鳩達は人の頭の上にフンをひりかけて
楽しんでいる
 
六月の蟻
 
いまの僕の気になることといったら
六月の蟻だ
 
雨が降っても
曇天ならなおさら
六月の蟻だ
 
いまの僕に興味のあるのは
紫陽花なんかじゃなくて
六月の
蟻だ
 
 
風景 七
 

人力車
築地
 
東京の街
くもり空
味噌ダレおでん
ピエロ
 
この詩に意味はありません


無題歌 六

何故か生きていることは淋しいと思った
都会の寂しさに似ていると思った
酒も女もまじめに愛した
結果は嘔吐や哀しさだった
不毛と書いて
苦笑(わら)ってしまった
 
 
無題
 
嘘を
いくつもいくつも重ねて
ひもを通した硬貨のように
つるしておく
 
悔いなど一つもない
・・・それも嘘だ・・・
 
悔いばかりだと言ってしまえば
悔いもなかろうが
 
悔いをいくつも重ねて
それでも生きている
それでも悔いなどないと
強弁すれば
 
目の中を
夕日が傾く
 
せめて
 
せめて子供の頃の
嘘つきの純粋の
生意気の泣き虫の
狡猾の弱虫の
どうにもせつない想い出の
あのころの
子供の頃に
せめて・・・・。
 
 
都会にて
 

ねむっている君の耳に
潮騒は聞こえるか
時どきだが
父さんは潮騒を聞くことがある
 
つめたくて静かな海の底のようすなど
お前に教えるすべもないが
つめたく静かな水の中で
いろいろな形の生き物が
風に吹かれてユラユラゆれているのだ
そうとも
海の底にも風は吹いているのだよ

でも、都会のこの部屋には
海は持ち込めない
 
その風のはこんでくるのが潮騒だから
こんな都会の小さな部屋でも
体のまわりはすっかり青い水になって
海の底の藻のように
体もユラユラゆれだすのさ
時どきだがそんなふうに
父さんは潮騒を聞くことがある
 
 
とある暑い夏の夜
 
 
犬が飼いたい
犬が飼いたいと言っていた妻が
「アパート住まいで庭もないし私これでが
まんするわ」

手にした一本の皮ひもにつながれて
足元にちょこんと座っている犬
とよく見ると
犬の鎖と見えたのは
電気コードで
足元にあるのは
首をたらした電気スタンド
とよく見るとそれは
我が家の十ヶ月の長男で
四つバイでしきりに
片手を振っている
とよく見るとそれは
わたし自身で首輪と鎖でつながれて
片足で腹のあたりを掻いている

こんなかなしいことを
詩に書けるかと思ったが
結局
書いてしまった
 
 
たとえば春は
 
 
たとえば春は
かげろうの尻尾につかまってやってくる
かげろうの命の短いことわけはそれだ
 
人の命の短いわけも
尻尾をつかまれているからだ
時間というやっかいなやつに
 
春が来て
また僕らは見るんだ
かげろうの重そうな姿を
あれは
卵のせいばかりじゃない
 
 
風景 五
 
 
軽い老婆は風に吹き上げられ
メリーポピンズのように空を飛ぶ
あわてている様子はたしかだが
ここからでは
口の形も良くわからない
シミの浮いた足が
スカートからのぞいていて
そればかりが印象的だ
十一月の風の強い日は諸君
たまには空を見あげてみたまえ


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